静岡沼津に残る源氏・阿野全成の館跡と墓所…その秘めた野心とは?

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館長のふゆきです。

全国の城や史跡をぶらり旅する「夢中図書館 いざ城ぶら!」。いま「鎌倉殿の13人」に夢中…。
いざ鎌倉殿ゆかりの地へ!今日の夢中は、静岡沼津に残る源氏・阿野全成の館跡と墓所…その秘めた野心とは?です。

■阿野全成

阿野全成(あのぜんじょう)。幼名は今若丸。
源頼朝の異母弟にして、源義経(幼名は牛若丸)の同母兄です。

醍醐寺に預けられていましたが、治承4年(1180年)兄頼朝の旗揚げを聞くと、寺を抜け出し頼朝のもとに馳せ参じます。
これは兄弟のなかで最も早い合流でした。このとき頼朝は、涙を流して喜んだといいます。

頼朝の信任を得た全成は、頼朝の妻政子の妹である阿波局と結婚します。
さらに、駿河国阿野荘を領地に与えられて、鎌倉幕府の御家人として仕えたと伝えられます。

正治元年(1199年)頼朝が死去し、その息子の頼家が2代鎌倉殿(将軍)となると、これまで伏在していた全成が動き出します
全成は、頼家の弟実朝の乳母夫でした。妻の阿波局が乳母を務める実朝の擁立に乗り出したのです。

同じく実朝派の北条時政らと陰謀を張り巡らせますが、それは頼家一派の知るところとなります。
建仁3年(1203年)5月、先手を打った頼家は全成を謀反人として捕らえ、常陸国に配流します。

そして同年6月、頼家の名を受けた八田知家によって誅殺されました。享年51歳…。

■大泉寺~阿野全成居館跡

それでは、阿野全成ゆかりの地をぶら歩きしましょう。

阿野全成が領有したとされる駿河国阿野荘は、現在の静岡県沼津市周辺にあたります。
JR東海道本線・原駅から歩いて30分、そこに阿野全成ゆかりの場所があります。

それが「大泉寺」(だいせんじ)。阿野全成の居館があったとされるところです。
全成は、この地で先祖の霊を弔うために、自らの居館に持仏堂を建てたと言われます。これが大泉寺のはじまりです。

大泉寺の南側には、寺社にはそぐわない土塁跡があります。これは全成の領地の名残りでしょう。
確かに当地は、鎌倉側にとっては西国側と接する最前線。全成は、鎌倉幕府の要人として、そうした重要な拠点を任されたものと思われます。

住職の話しによると、当地は富士山のふもとにあり、近くでは当時の軍事に必須の馬を放牧して育成していたそうです。
そうしたことを鑑みると、当地はかつて寺社ではなく、軍事拠点だったのでしょうね。

■阿野全成の墓所

ここには、全成の弟義経が奥州へ逃れる際に立ち寄ったという言い伝えもあります。
兄頼朝に追われての逃避行…。義経は全成と涙ながらに語り合ったのだとか…。

この2人は、同じく常盤御前を母とする兄弟。かつて父の義朝が討たれた後は、平家の追っ手から逃れるために、常盤は幼い息子たちの手を引いて京都から逃げ出しました。
そんな強烈な幼少期を過ごした全成と義経の絆は、弱かろうはずがなかったのではないでしょうか…。

奥州に逃れた義経は、頼朝に追い詰められ命を落とします。
一方の全成は、頼朝健在の間は決してその野心を表に出すことなく、粛々と時を過ごしました。

その全成は、頼朝の死後にその子頼家が将軍位に就くと、自らが乳母夫を務める実朝の擁立を図り、暗躍を始めます。
頼家の信頼厚い梶原景時を追い払うと、頼家の乳母である比企一族の排除に向けて北条時政と密談を重ねますが、それは頼家と比企氏の知るところとなりました…。

全成は捕縛され、斬首されました。全成の首は、一夜のうちに阿野の地まで飛んで来て、松の木の枝に掛かったという伝承があります。
「首掛け松」…。その松の木はもう残っていませんが、境内には切り株の複製と記念碑が建っていました。

(左:切り株の複製と記念碑、右:実際の切り株)

寺務所には、松くい虫の被害でやむなく伐採したという「首掛け松」の、実際の切り株(防腐加工済み)が保存されていました。
さらに、「鎌倉殿の13人」で、阿野全成役を演じる新納慎也さんが来訪した時の写真もありました。味のある役者さんですよね。一般には知られていない全成を見事な存在感で演じています。

境内には、その阿野全成の墓が祀られています。
全成の墓と並んで建つのは息子時元の墓です。阿野時元は承久元年(1219年)、実朝が暗殺されると反北条の兵を挙げましたが、北条義時が派遣した軍に討ち滅ぼされました。

阿野全成。通称・醍醐禅師。その荒くれぶりから「悪禅師」とも呼ばれたそうです。
頼朝による源氏一族粛清を生き抜いた全成ですが、彼もやはり一族(甥の頼家)に殺されました。こうして源氏の血脈は、内部抗争によって次々と失われていくのです…。

■基本情報

名称:大泉寺(阿野全成館跡/墓所)
所在地:静岡県沼津市井出744
アクセス:JR東海道本線原駅から徒歩30分

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