源実朝はなぜ渡宋を夢見たのか?渡宋計画ゆかりの藤沢・鎌倉史跡めぐり

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館長のふゆきです。

全国の城や史跡をぶらり旅する「夢中図書館 いざ城ぶら!」。いま「鎌倉殿の13人」に夢中…。
いざ鎌倉殿ゆかりの地へ!今日の夢中は、源実朝はなぜ渡宋を夢見たのか?渡宋計画ゆかりの藤沢・鎌倉史跡めぐりです。

■源実朝の渡宋計画~通説と異説

建保4年(1216)源実朝のもとに、東大寺大仏殿を再興した宋人・陳和卿が訪れます。
陳和卿は、実朝の前世が宋国医王山の長老であったと告げると、実朝はいたく感激して、渡宋を夢見るようになりました。

実朝は、その夢を実現すべく、陳和卿に唐船の建造を命じます。
側近の北条義時や大江広元らが思いとどまるように諫めますが、実朝は頑として決意を変えませんでした。

建保5年(1217)念願の唐船が完成します。
船は由比ガ浜から海に曳かれていきましたが、遠浅の浜で船は浮かぶことはありませんでした…。実朝の渡宋計画は失敗に終わりました


…というのが、一般的に流布している実朝の渡宋計画ですが、近年は異なる見方も出ています。
その説では、渡宋計画が頓挫したのは事実ですが、唐船建造の目的については、実朝自身が渡宋しようとしたのではなく、日宋貿易を行おうとしたのだとしています。

つまり、実朝は日本(東国)の経済を活性化させるために、大陸と貿易しようとした…。
確かに鎌倉は海沿いですし、過去に平清盛が神戸で日宋貿易をひらき豊かな経済圏を築いた前例があります。

だとすると実朝は、政治から離れて和歌に勤しんだ歌人将軍というより、広い視野を持つ英邁な実務将軍という一面が見えてきます。
果たしてどちらが真の実朝の姿なのでしょうか…。答えは歴史の闇のなかです。

■渡宋計画ゆかりの史跡めぐり

それでは、鎌倉幕府3代将軍・源実朝が夢見た渡宋計画ゆかりの史跡をめぐりましょう。

はじめに訪れたのは、神奈川県藤沢市にある「船玉神社」です。
唐船建造に用いられる材木は、この辺りから切り出されたと伝わっています。当地の地名は「大鋸」。大きな縦引きのノコギリを使う職人「大鋸引き」の住んでいた町でした。

当時は江の島からこの付近まで船が行き来していたため、切り出された木材は船で由比ガ浜に運ばれました。
その乗船成就・海上守護のために勧請されたのが「船玉神社」と伝わっています。

(船玉神社)

実朝の夢を乗せた唐船は、由比ガ浜海岸の近くで建造されたと伝わります。
それは、多くの人工と多くの費用をかけた実朝肝いりの一大プロジェクトでした。

…しかし、船は海に浮かびませんでした。
これまでの規格を大きく超える巨船は、遠浅の海を漕ぎ出すことができなかったと考えられます。唐船はそのまま海辺で朽ち果てました。

(由比ガ浜/船の形を模した実朝歌碑)


実朝の宋への思いが強く伝わる史跡が鎌倉にあります。
それが「円覚寺舎利殿」に納められている仏舎利です。この仏舎利は、実朝が建保4年(1216)に宋の能仁寺より請来したものです。同舎利殿は、鎌倉で唯一の国宝に指定されています。

(円覚寺舎利殿)

同じように、実朝が宋から苗を取り寄せて植えたと伝わる「ビャクシン」があります。
鶴岡八幡宮若宮の前に建つ古木がそれです。実朝の夢を乗せた渡宋計画…。なんとかして実現させてあげたかったですね…。

(鶴岡八幡宮若宮のビャクシン)

■右大臣実朝

実朝の渡宋計画は失敗に終わりました。
ただ実朝の大陸への思いは変わりませんでした。仏舎利を求めたり、御家人を代わりに宋へ派遣しようとしたり…。

もしかしたら、和田合戦などで孤独感を深めていた将軍実朝は、海の向こうに希望を見出そうとしていたのかもしれません。
あるいは、御家人の諍いのもととなる土地や金銭のトラブルを解決するためにも、日宋貿易で新たな財源を得ようとしたのかもしれません…。


一方で、実朝はこの時期、官位の昇進を強く望んで朝廷に働きかけました。
義時や広元らが諫めますが、実朝は「源氏の正統は自分で断絶するから、せめて家名を挙げておきたいのだ」と述べたそうです。

建保6年(1218)実朝は、とうとう右大臣に昇りつめます。それは武士として初めての任官でした。
これは朝廷側の「官打ち」(身分不相応の高い位を与えて自滅させる)との見方もありますが、「源氏の正統は自分で断絶するから」という思いがあったとすると、なんとも切ないです…。

翌正月、実朝は右大臣昇進の拝賀のために鶴岡八幡宮を参詣します。
それは、雪の降る日でした…。実朝の言葉が現実のものとなります。鎌倉最大の悲劇が、そこで起きたのです…。

■基本情報

【船玉神社】
住所:神奈川県藤沢市大鋸2丁目4−12
アクセス:JR藤沢駅から徒歩15分

【円覚寺舎利殿】
住所:神奈川県鎌倉市山ノ内431
アクセス:JR北鎌倉駅から徒歩1分

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